いまは離婚できない…「コロナ離婚」はむしろ収束後に増える

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 新型コロナウィルス感染症対策により、外出自粛、リモートワークが叫ばれ始めたころ、「外出自粛によって、夫が家にいる時間が長くなることにより、DVが増える/離婚が増える」のではないか、という話題が出た。 【写真】既婚女性の73%が「望まないセックスをしたことがある」と回答  緊急事態宣言から1ヵ月ほどが経過した現段階の私の肌感覚では、さほど離婚のご相談が増えたとは感じていない。

むしろ離婚へのハードルが上がっている

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 それはそうだろう。離婚する、となるとまず離婚後の衣食住の確保、そのための経済基盤を考えなければならない。ところが経済活動の自粛、不況がいつまで続くかわからない、となると、離婚後の経済基盤が不安になる。特に子供がいる女性の場合には、離婚への一歩を踏み出すのに慎重になる。  また、離婚したいと考えれば別居するケースも多いが、新型コロナウィルス感染症が猛威を振るっている中では、別居のために実家に帰る、という手段を取りにくい。老いた親にウィルスをうつしかねないためである。同様の理由で「兄弟姉妹/友人宅に身を寄せる」という方法も取りにくくなる。こうして別居へのハードルが上がると、さらに離婚への手がかりが少なくなる。いわゆる「コロナ禍」によって、離婚自体が直ちに増えたわけではないと感じる。  一方、コロナ禍は、すでに表面化している離婚問題解決の方向性や、その内容には多大な影響を与えている。

近いとより密接に、遠いとより疎遠に

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 外出自粛、テレワーク、他者との接触減少などの要請は、「すでに密接な関係をより密接にし、すでに疎遠になっている関係をより疎遠にする」という方向に進ませる。例えば同居している家族は、いやでも毎日同じ屋根の下で暮らし出かけられず、それ以外に会う人がいないために、よりお互いとの接触が密になる。逆に、すでに別居している家族は、外出自粛、接触減ということで、より疎遠になる、もしくは疎遠になることが正当化される。  まず、同居中の家族・夫婦に与える影響のうち最大のものは、やはり在宅勤務など、配偶者が常に在宅することによる影響である。これまで、主に妻側は離婚を考え、別居に踏み切るときに、「旦那が仕事中に、黙って荷物をまとめ家を出る」という作戦を用いることが多々あった。旦那が帰宅してみたら、家の中はもぬけの殻、「あとは弁護士から連絡がいきます」という置手紙だけが残されている。という作戦である。  だが、夫が家にいれば、この作戦は実行不可能であり、夫に隠れて別居してしまうことはできなくなる。これは、主に妻側に、いずれ離婚するとしても「今は動けない。もう少し辛抱しよう」という判断を迫ることになる。  また、以前は家にいなかった父が家にいると、子どもが案外父親になついている、という事実に母親が気づく、というケースもある。これもまた、妻側にとっては離婚の実行を遅らせる有力な要因になる。  一方、コロナ禍が別居中の夫婦に与える影響となると、全く別である。

別居家庭は対立がさらに深まる

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 未成熟子がいる別居家庭の場合は、特に影響が大きい。つまり、一方の配偶者(多くの場合妻側)が子どもと共に生活しており、週末に別居親(多くの場合は夫側)と子どもが面会しているような家庭の場合である。  未成熟子と別居親との面会交流は、どうしても手をつないだり抱っこしたり、という身体的接触が多くなる。また、面会交流の場所も、「動物園」「公園」「ショッピングモール」といった場所になりやすい。多くの場合、別居している夫婦はお互いの家に行きたがらないし、子どもがお互いの家に行くことも嫌がるからだ。  そうなると、同居している方の親、特に、できれば別居親と子どもとを会わせたくないと思っている親は、「子どもと別居親をあわせたくない」という感情的な主張が、「別居親が新型コロナウィルスに感染しているかもしれない」「いつもの面会交流の場所が閉まっている」「よって、別居親と子どもとの面会交流は今はできない」というまっとうな、子どものためを思っての主張として通ってしまう。  また、面会交流の日時や場所について、裁判所の調停を利用して決めている夫婦もそれなりに多いのだが、緊急事態宣言発令後、裁判所の調停は全く機能していない。調停は、待合室も調停室の中も、超がつくほど「三密」であったので、まあ、やむを得ないという一面もある。しかし、調停が実施されないとなると、「調停で決まらないのだから次回の面会交流は行えない」という同居親の主張が通ってしまうことになる。  本来、子どもが幼ければ幼いほど、面会交流を頻繁に行い、子どもが別居親との絆を確認することが大事である。一方、子どもが幼ければ幼いほど、面会交流が遠ざかれば別居している親のことをすぐに忘れる。久しぶりに会った親を覚えておらず、びっくりして泣き出したり、人見知りをしたりする。そうると同居親は、「泣いて嫌がる子どもに、無理に面会交流をさせることはできない。かわいそう。子どもも会いたくはないのだろう」という方向に考えがちになる。こうして、面会交流の円滑な実施は困難になり、別居親の方は、「同居親のせいで子どもと会えなくなった。許せない」とますます対立を深めていく。

親権・監護権争いは「連れて行ったもの勝ち」に

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 もっと深刻なのは、別居している親同士で親権、監護権に争いがある場合である。  我が国の家庭裁判所は、「子どもを、どちらが育てるか」について争いがある場合、「これまで誰が、主に子どもを見て来たか」「現状どちらが子どもを育てているか」「その状況が安定しているかどうか」「その状況で、子どもに著しい悪影響はないか」を見る。そして、現状に大きな問題がないのであれば、現状を維持したい、というのが裁判所の基本的な考え方である。  つまり、たとえば、父親が子どもとともに自宅を出、実家に帰った。父親は実家の協力を得て、子どもを育てており、その状態が6ヶ月続いていて、子どもも元気にしている。となると、この状態をわざわざひっくり返し、子どもを自宅、つまり母親の元に戻しましょう、という判断はなかなか出ない。  ところが、これが連れだしてから1週間しか経っていないとか、10日しか経っていないという場合、裁判所は「子どもをもとの生活環境に戻しましょう」と判断する方向に傾く。「時間の積み重ね」が、勝敗を決する大きな要因になり得るのだ。  このように、夫婦のどちらか一方が、独断で子どもを連れて夫婦生活の本拠地を出て行き、子どもを戻す、戻さない、が強く争われている場合、「子どもの現状の安定」が大きな争点になる。子どもが一つ所で生活を続ければ続けるほど、当然生活は安定を続ける。よってこの場合、別居親は早期に司法手続きに入った方がよいのだが、コロナの影響で法律事務所も閉めているところが多かったり、また、親自身の収入が不安定になるなどして、なかなか行動に移せない。  となると、こと親権や監護権に関しては、連れて行ってしまったもの勝ち、という状況が生じかねない。

「養育費はコロナが収束してから」作戦

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 また、親権や監護権、面会交流のほかに、養育費の問題もある。  例えばコロナ騒動によって別居親が失業したり、収入が減額された場合、別居親が同居親に支払う養育費の額は減額される方向に働く。そうすると同居親としては、この状態を前提として養育費が定められてしまっては困るので、ともかく今は養育費について合意したくない、争い続けて、相手が収入を上げるまで待とう、という作戦を取る場合もある。  以上をまとめると、すでに別居に踏み切っている夫婦の離婚問題に関していえば、養育費/婚費問題にせよ、面会交流にせよ、親権/監護権問題にせよ、コロナ禍は問題を長引かせ、解決を遅らせたり、激化させる方向に働く。とすれば、コロナ離婚の問題が大きく顕在化するのは、むしろコロナ収束後であろう。  コロナが終われば。そうしたら妻に、息子に、ああしてやろう、こうしてやりたい、と思っている人も多いだろう。しかし、非常事態宣言がすべて解除され、大都会の経済活動が再開し外出も問題なく行われるようになったとき。経済状況が改善し焦燥から解放され、ほっと息をついて家族を振り返ったとき。そこに、もう家族はいないかもしれない。  その時にはすでに手遅れ。「アフターコロナを見据えて」とよく言われるが、家庭内でも、「アフターコロナ」は見据えられなければならないのである。

野島 梨恵(弁護士)

2週間前