■母の日と武井氏
検察官の定年延長に関して、それに反対する数百万のツイートが寄せられ、また有名芸能人が多数そこに含まれていることが話題になっている。そんなTwitter話題に紛れるようにして、タレントの武井壮氏がこんなツイートをしていることもプチ話題となった(武井壮が『母の日』にTwitter投稿 生き別れた母親への想いに、反響 「感動」「気持ち届いてほしい」)。
どうやら母の日に向けてつぶやいた言葉らしい。それはこんなツイートだ。
このツイートからは、武井氏は幼い頃の父母の離婚に伴い、母とは別れたことがわかる。上の引用記事からは、その後は兄弟ふたりで生活したことも示唆されている。離婚後は単独親権になる日本の法制度の下、氏は母とはそれ以来会っていないようだ。
Twitterではこれが武井氏の美談と化してしまったが、単独親権下における「一般的悲劇」の一つだと言える。毎年20万組が離婚する離婚大国である我が国ではあるが、それと同時に親権がどちらか一方の単独親権となり、武井氏のような悲劇が毎年数万件起こっていることは驚くほど知られていない。つまり、数万人あるいは10万人以上の子どもが、片方の親に会えるのは月1回2時間程度(これが平均)、下手をすると武井氏のように生涯ずっと会えなくなることが知られていない。
自分が離婚するまで、あるいは自分の子どもが離婚するまで、その子やその孫とはほぼ会えなくなるということを、ほとんどの国民は知らないか知っていても他人事なのだ。
■GDPマイナス21%
この単独親権の悲劇を当欄では度々指摘している(堕落した「離婚システム」ほか)。
そこでの最大の被害者・当事者は子どもであるということも指摘してきた。それはたとえば、上の武井氏のようなあり方だ。
その問題と、今年の母の日が重なり、武井氏のツイートが生まれたわけだが、この5月は「新型コロナ禍」の本格的始まりの月でもある。
一部では、この4-6月期のGDPがマイナス21%に予測されるなど(マイナス21%成長予測 4~6月民間平均、戦後最悪に)、リーマンショックやバブル崩壊期どころか、あの世界恐慌時と比較して語られるのも大げさではなくなってきた。
4月は自殺数が減ったという報道があったものの、自殺とGDPは相関することはよく知られているため(不況・失業と自殺の関係 についての一考察} 、自殺の本格的増加は今月からだと思う。
だが政治の取り組みはかなり遅く、また上の数百万Twitterにもあるように、明らかに政治は混乱しなにか行き詰まり状態のようになっている。
一方では、某有名実業家のツイートが「パワハラ」「モラハラ」と批判されたりもしている。少し前まではその実業家は何をやっても注目されどちらかというと称賛されていたが、徐々にそんな風向きも変わってきたように僕は感じている(その具体例には脱線防止のためあえて踏み込まない)。
世界恐慌以来の大不況が始まる今、集客型のサービス業が塊となって退却するほか、かなり恣意的に感じられるリモート環境の導入なども含め、今からの1年で大きな変化が訪れると思う。政治も動乱するかもしれない。
そして、これからの大不況のもと、「価値の大転換」も訪れるような気もする。
■「パラダイムチェンジ」の今だからこそ
働き方や生活スタイルが大きく転換し、既存業種が廃れて新興業種が現れてくるのであれば、既存の「価値」も転換しても不思議ではない。
具体的にそれがどう変わるのかはわからないものの、その価値(パラダイム)転換の象徴として、
共同親権、
があるのかもしれないと、ふと武井氏のツイートを見て僕は思った。
親権議論をする時、欧米との比較(G7では日本のみ単独親権で、他は共同親権)や明治以来の民法の改革、あるいはDV予防の視点から頑なな単独親権へのこだわりなどが常にとりあげられ、去年から法務省で共同親権についての勉強会は始まったもののその変革スピードは遅い。
それが、今回の大不況下で価値転換が進められる時、その「価値転換の象徴」の明るい題材のひとつとして、共同親権をとりあげてもいいのではないか、と僕は思うのだ。
冒頭の武井氏の悲劇は芸能人の特例ではなく、毎年数万人いや10万人以上の子どもたちが迎える代表的クライシスのひとつなのだ。そこで子どもたちは、自ら生き残っていくために、「同居する親」のほうに自分の価値を転換させ、「別居する親」と心理的距離をとっていったりもする。自分が生きていくために、今いっしょに住んでいる親に「合わせて」いくようになる。いわゆる「洗脳」を受け入れる(「ぼくは、父(母)親に絶対会いたくありません」~「連れ去り洗脳」という児童虐待)。
まさに、これは悲劇なのだ。
子ども視点に立つと、子は両方の親と自由に会いたいし、その中で大人になっていきたいと無意識的に誰もが思っている。僕も25年以上子ども・若者支援を続けてきたが、どんな環境にいる子どもでも全員そう思っている。
共同親権について(有名歌手の高橋氏ツイートを思わずリツイートした際に)僕がこうつぶやいたように、
まずはそんな子どもの気持ちを大切にしたい(もちろんDV事例は個別に対処する、念のため)。
「子が親と自由に会って過ごし大人になっていく権利」、これが保証されるのが共同親権であり、武井氏の苦労と涙(ポジティブな氏は決してそうは書かないだろうが)を反復しないためのシステムである。
言い換えると、共同親権とは、「子どもが主人公になる権利」のことだ。それは、子どもが明るくなるということだ。子どもの生存戦略として仕方なくどちらかの親に合わすよう強制するような陰気で暗いシステム(現状の単独親権)を打破することが子どもの笑顔を導くことになる。そして、子どもが笑うと社会も明るくなっていく。
これからの大不況下の社会を明るく照らすためにも、子どもの笑顔を生み出す可能性を秘める共同親権へと移行したい。
それは、「パラダイムチェンジ」の今だからこそできるのではないか。