DV加害者にされた男性は名誉をどう回復したか

3月下旬、注目された行政に対する裁判が決着を迎えた(参考記事:「突然子どもに会えなくなる『虚偽DV』の悲劇」)。訴えていたのは愛知県在住の公務員、佐久間利幸さん(仮名、40代)。決着に至るまでの年月――それは男性にとってDV加害者としてのレッテルを引き剥がし、娘との絆を取り戻すための戦いであった。

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3月30日、地元の東海テレビが行政に対する裁判の結果を伝えたが、報道された内容を要約すると次のとおり。

 虚偽のDV被害を申告され、提訴していた公務員男性(40代)が愛知県の半田市とこのたび和解した。「元妻が捏造した相談でDV加害者として認定され、娘に会えなくなった」として、2016年、県(県警)と妻(当時)を提訴、1審の名古屋地裁では県の過失が認められたが、2審の名古屋高裁では退けられた。その後、男性はDVを認定した半田市を提訴、3月19日半田市が謝罪し和解が成立した。

■原告が勝訴する

佐久間さんと代理人である梅村真紀弁護士に話を伺う前に、まずは前記事の内容をダイジェストで記してみよう。

 2012年の年末、広子さん(仮名)は利幸さんが仕事をしている間に、当時未就学児だった静香ちゃん(仮名)を連れ、愛知県内の地方都市から近隣の半田市に転居する。

面会交流調停~審判では、宿泊と日帰りが1回ずつという月2回の面会交流のほか、休み期間中に長期宿泊面会する権利が認められ、学校行事への参加や手紙のやり取りは自由に行ってよいとされた。しかし妻が審判に反して面会交流を拒絶したため、佐久間さんは、学校訪問と手紙のやり取りだけで静香ちゃんと交流していた。

 2016年3月、広子さんは警察へ出向く。そこで、広子さんはDV等支援措置の申し出に必要な「支援相当」の意見書を取得し、半田市役所で支援措置の手続きを行った。これにより、利幸さんは妻や娘の住民票の開示が不可能となった。さらには、学校を訪問して娘に会ったり、学校を含む行政機関から静香ちゃんの情報を共有してもらったりすることが不可能になった。

同(2016)年8月、利幸さんは損害賠償請求を名古屋地裁に申し立てた。

被告は、「暴力被害防止目的ではない目的で援助を求めた妻(広子さん)」と「それを安易に認め『支援相当』の意見を出した警察(愛知県)」であった。

判決は原告の勝訴。2018年4月、名古屋地裁の福田千恵子裁判長は利幸さん側の損害賠償請求に対し、広子さんと県の責任を認め、55万円の支払いを命じた。

広子さんの支援措置が目的外利用だと認められたのは、住所をブロックしなければ身に危険が及ぶというDVの危険性が認められなかったからだ。

 2019年1月、名古屋高裁の控訴審では原告の訴えが覆された(なお、離婚については高裁の判決前に成立)。

梅村弁護士は次のように話す。

「判決では次のように述べられました。

①『学校行事参加妨害目的』でも『暴力被害防止目的』がなかったとは言えない。

②警察には妻の申告内容の真偽を加害者のために調査する義務はないし、最終的な支援措置実施の可否を判断するのは受付市町村なので警察には責任はない。

これまで支援措置に関する裁判は、受付市町村に対して裁判を起こすのが通常でした。その場合、『警察の“支援相当”の意見に基づいて市町村は支援措置を決定しているので、市町村に責任はない』とされ、訴えが棄却されてきました。

 そこで、私たちは愛知県(県警)を訴えました。すると、名古屋高裁は『警察ではなく受付市町村の問題』という判断をしました。要するに責任のたらい回しです」

さらには最高裁への上告棄却により、県(警察)に責任がないということで、確定した。

■支援措置の違法性にこだわった

今回、半田市のみを提訴したのはなぜか。

「ムダな争点を排しました。責任は受付市町村にあると高裁が判断したのですから、受け付けた半田市だけを訴えようと」(梅村弁護士)

 なぜこんなに支援措置にこだわるのか。

「支援措置制度のおかしさを世に訴えたかったからです。この措置は『被害者の申告』のみに基づいて、受け付けを行います。仮にその申告内容が虚偽だったとしても、罰則が存在しないんです。

申告された相手は一方的に『DV加害者』扱いされ、反論の機会も与えられません。ですので、虚偽の場合、加害者扱いされた人は、名誉を侵害されてしまいます。

また同時に、連れ去られた子どもの情報も、公平中立であるはずの行政機関から完全に秘匿されてしまいます。妻による面会審判不履行後も最低限行うことができていた、学校訪問と手紙のやり取りによる静香ちゃんとの交流さえも、DV支援措置以降できなくなってしまっています。

これは離婚前から、親権を剥奪されるのと同じです。要するに、何の反論の余地も与えられることなく、行政機関から子の親であることを一方的に否定され、子どもと生き別れ状態にされてしまうんです」(梅村弁護士)

佐久間さん自身、大変だったという。

「娘に会えなくなったことに加え、DV加害者という社会的なレッテルを貼られて苦しみました。昇任や昇給といった人事査定にも影響しましたし、ネット上でも相当たたかれました。とくに高裁の判決が出た後は、DV加害者と決めつけられ、いわれのない中傷が数々なされました」

 彼は下血し入院を余儀なくされた。また子どもに会えないつらさも相まって、急に涙が出てきたり、仕事での集中力を欠き思うように仕事ができず、退職も考えていたそうだ。

■和解の意味

2019年3月、半田市との裁判が、名古屋地裁岡崎支部で始まった。

裁判では、半田市がさまざまな事情を知っていながら支援措置を受け付けたことが重視された。それは、面会交流審判の存在であったり、広子さんの半田市への相談内容だったり、佐久間さんがもともと知っている半田市内の住所をブロックしても暴力被害防止とはならなかったり、といったことだ。それは、警察の支援相当の意見を受けて、受理したという事情はあるにせよだ。

 広子さんが暴力被害を防止する目的ではなく支援措置を申請している――そのことを半田市は知りながら受理し、住民票等を利幸さんに対してブロックした。

裁判所は、半田市に落ち度があることを指摘し、佐久間さんとともに和解勧告がなされ、両者はそれに従った。2020年3月19日のことだ。

「裁判だと判決が出るまでに時間を要しますので、和解勧告に応じました。金銭目的の裁判ではないので、金銭請求は放棄する一方、謝罪と被害内容を明確化することを求めました」(梅村弁護士)

 和解条項は以下のとおりである。

1 被告は,原告に対し,原告を加害者とする住民基本台帳事務における支援措置申出につき,住民基本台帳事務処理要領に照らして不適正な取扱いを行ったことを認め,これを陳謝する。

2 被告は,支援措置の要件を満たさなかった状況において,原告について前項の支援措置における加害者であるかのような誤った印象や憶測が発生・継続したこと,原告が●●市において未成年者の法定代理人ないし直系尊属として未成年者の情報に接することが困難になったこと等を重く受け止め,今後の支援措置の実施に当たってはその適正性等につき更なる確認に努めることを確約する。(以下略)

この条項のキモは「2」である。

・佐久間さんをDV加害者だと見なし支援措置を受け付け、その措置をずっと撤回しなかったこと
・実の親が、離婚前も離婚後も、未成年である子どもに会うことはもちろん、居住地や学校などの情報にすら触れることができなくなったこと
誤った支援措置は、「名誉」と「親が子の情報に接する権利」という2つの重大な権利侵害を発生させる。

これを半田市が認めて謝罪したことにより、佐久間さんはDV加害者というレッテルを剥がし、ようやく名誉回復が図られるとともに「静香ちゃんの親」としての立場を取り戻したと言えるだろう。

 「支援措置制度によって助かるDV被害者もいるでしょう。しかし、DV被害防止目的でなく、行政を味方につけることによって子の情報を相手に遮断し、『離婚に当たって親権を確実に得る』ために制度を悪用することもできるのです。

今回の和解で、私たちは、佐久間さんの名誉回復だけでなく、『証拠不要の支援措置を悪用した親子断絶被害の存在』を行政が認めることを、賠償金なしの和解に応じる絶対条件としました。

同じような被害を受けている人は、表面化していないだけで、全国には多数存在するはずです。この和解をきっかけに『DV被害者保護の名の下、制度悪用者が現れる危険性』『加害者扱いされた被害者の存在』『DV冤罪で生き別れになった親子の存在』に、行政だけでなく世間も目を向けてほしいと思っています」(梅村弁護士)

 「私は、支援措置によって『DV加害者』『性的虐待者』扱いされ、名誉だけでなく学校等を含むすべての行政機関から『親であること』まで否定され、静香との面会を実質ゼロとされました。こんな私が親としての尊厳を取り戻し、再び子どもと会えるようになるためには戦うしかない思い、自分を鼓舞してきました。また、これは誰にでも起こりうる問題。被害者をこれ以上出したくないという気持ちもありました」(佐久間さん)

■親子の再会はいつ

なお、この和解は覆すことはできない。半田市役所が認め、謝罪したからだ。

和解した半田市にコメントを求めた。すると、担当者は次のように発言した。

「(元妻と娘が)半田市から転居し支援措置が終了していたにもかかわらず、手続きを怠ってしまいました。その点について謝罪いたします」

和解条項では、支援措置を受け付けたこと自体を謝罪していたにもかかわらず、その点についての謝罪は口にしなかった。

また、広子さんの代理人である可児康則弁護士にも結果についてのコメントを求めたが、コメントは得られなかった。

 最後に、佐久間さんに娘の静香ちゃんとのその後について、伺った。

「もう4年あまり、消息すらわかりません。だけど、子どもが使っていた部屋はいつ帰ってきても使えるよう、今もそのままにしています」(佐久間さん)

親子の絆はそう簡単に切れるものではない。私は親子の再会を信じている。

西牟田 靖 :ノンフィクション作家・フリーライター

5年前