離婚後「子どもと会えない」母親の悲痛 単独親権が壁に?

 

「子どもと最後に会えたのは1年半以上前です」。県内の30代女性から本紙「声のチカラ」(コエチカ)取材班に悲痛な声が届いた。離婚後、面会できることを条件に息子2人の親権を元夫に譲ったが、元夫の意向次第で会えないことが多くなったという。民法は、離婚後に一方の親にしか親権を認めない単独親権制度を採り、女性と同様のケースは多数ある。「共同親権」を求める訴訟も起きており、国も導入の是非を議論している。(奥川瑞己)

女性は2003年に県外で男性と結婚し、息子2人を授かった。だが、元夫と折り合いがつかなくなり、長男が6歳、次男が3歳だった10年夏、離婚を切り出した。元夫は息子2人と出ていった。

家庭裁判所での調停の末、同年12月に離婚が成立。当初は「面会交流」という形で月1、2回、自宅や実家などで息子たちに会うことができた。ただ、14年8月に女性に交際相手ができたことを知ると、元夫は「もう会わなくていいだろう」と言った。

「(近くにいても)会えないのだから」。女性は身を切られる思いを振り切るように引っ越しを決意し、県内に移り住んだ。

それでも会いたいという気持ちは止められなかった。元夫に知られないよう学校帰りの息子たちに会いに行った。5年前には長男の修学旅行先を訪ねた。この頃、密かに会っていることを元夫に知られ、面会を拒否されるように。それ以来、会えたのは18年7月の1度だけだ。

この女性のようなケースで子どもに会えないのは「民法の単独親権に問題がある」。県内で双方が親権を持つ共同親権の実現を求める運動に取り組む、著述業の宗像充さん(44)=下伊那郡大鹿村=は訴える。民法は婚姻中は共同で親権を持ち、離婚後は一方を親権者にすると定める。親権を手放した親は子どもとの関係が断たれやすく、調停で面会交流の回数や時間を決めても、実際には会えなくなる傾向があるという。

宗像さんの場合、元妻が親権を持っている。娘との面会は月1回、4時間以内に制限された他、元妻の意向で会えない時期もあった。

女性は離婚から間もなく10年。長男は高校1年、次男は中学1年になった。周囲からは「子どもを引き取れないのはひどい母親だからだ」「また産めばいい」と言われ、傷つくこともあった。

それでも女性を支えたのは、息子2人の言葉などを書き留めた「育児日記」と長男からもらったお守りがあったからだ。「母ちゃんの夢、いっつも見るよ」「母ちゃんのご飯が一番」。育児日記を読み返すと涙があふれる。お守りはかつて会いに行った際、長男が修学旅行のお土産としてそっと渡してくれた。「幸せを呼ぶ」と書かれている。

女性は支援団体や弁護士に相談し、昨年4月、面会を求める調停を家裁に申し立てた。調停中のため、女性の意向で元夫の話は聞けなかったが、元夫は「子どもが会いたくないと言っている」と主張し、協議が続いている。

【審判・調停申し立て、県内も増加】

子どもとの面会交流を巡る審判や調停の申し立て件数は近年増えている。裁判所がまとめた司法統計によると、全国では2008年度の7281件が、18年度には1万4943件へと増加。県内も08年度の89件から18年度は2・6倍の233件になっている=グラフ。

早稲田大の棚村政行教授(家族法)は、背景に単独親権への不満があると分析。「共働きで育児も共同で行う家庭が多くなり、離婚後も子どもに関わりたいと考える親が増えている」と指摘する。

昨年11月、宗像さんを含む8都道府県の父母12人は、単独親権は法の下の平等を定めた憲法に違反し、子どもと自由に会えない―などとして、国に損害賠償を求める訴訟を東京地裁に起こした。第1回口頭弁論は3月12日の予定。

国も共同親権導入の是非について検討を始めた。法務省は昨年11月、弁護士や大学教授らの研究会を発足。議論は1年程度かかるとみられるが、海外の実態などを参考に報告書をまとめるという。

共同親権を巡っては、家庭内暴力(DV)が原因の離婚などで問題が生じるとして、慎重意見がある。だが、棚村教授は「両方の親の援助を受けることができるなど、離婚後も両親が共同で責任を持つ考え方は大事」と強調。欧米のように両者の間に入って支援する機関を設けることを提案している。

[単独親権]

離婚後の子育てに関して、欧米では共同で養育するのが主流だが、日本は単独親権制度を採用している。民法819条は、父母が協議上の離婚をする時は一方を親権者と定めなければならない―と規定。単独親権は教育や住居、医療などの方針を決定しやすい利点もあるが、面会交流の回数や時間などは親権者側の意向が大きく働き、面会が実現していないケースもある。

5年前