https://headlines.yahoo.co.jp/article?a=20200229-00332781-toyo-soci&p=1
日本とフランスを長年行き来していて、両国で大きく異なると感じるのもの1つに「結婚」や「家族の在り方」があります。日本ではいまだに「異性と結婚をして、子どもを産み家庭を持つ」ことが、男女とも“理想的”な生き方とされていますが、フランスでは結婚することだけが幸せな生き方ではないという考え方が普通になっていますし、家族の在り方も多様化しています。
初めて日本に来たころ、結婚相談所があったり、女性の多くが婚活に熱心だったり、結婚が「目的化」していることにとても驚きました。フランスも1960年代まではそうでしたが、1970年代から意識が変わり始め、事実婚や結婚せずに同棲する人が増え始めたことで、1999年に「PACS(民事連帯契約)」が導入されるなど、実態にあわせて法律も変わりました。社会が変わると法律も変わるのは、フランスの面白いところですね。
■異性と離婚して、同姓と結婚する人も
一方、フランスでは2013年に同性婚が認められたことから(PACSはもとから同性同士でも契約を結べました)、最近では同性婚が増えています。私の妹もこの2年間で同性同士の結婚式に3回出席しています。その間、異性同士の結婚式はゼロ(笑)。
こんなこともありました。ある大学教授の女性はずっと結婚していた男性と離婚した後、女性と結婚。そして新しいパートナーと子どもを授かった。聞けば、1回異性と結婚していた人が、次に同姓と結婚するケースも驚くほど増えているようです。この点、フランスは非常に進んでいます。
私の甥っ子は今13歳ですが、同性婚の結婚式に呼ばれる機会も増えているとか。価値観ってこうやって変わっていくのだと思います。昔だったら「パパが2人いる」というのは奇異の目で見られたかもしれませんが、そういう価値観もどんどん変わってくるはず。日本とは本当に違うと思います。
同性婚は増える傾向にありますが、異性カップルは結婚ではなく、まずは一緒に住むことが多いです。お互い好きだから一緒に住む。そのまま関係がうまくいけば、自然と子どもを産んで……それから結婚するという選択をする人が少なくありません。
私の著書『フランス人はママより女」にも書いていますが、フランスでは、結婚が減っていると同時に、1970年代から離婚も増えていて、離婚率は30%程度ですが、パリでは50%を超えています。だから再婚も多いし、結婚していないカップルが多いぶん、婚外子も多い。今は子どもの約60%が婚外子です。ただし、フランスでは法律上、婚外子も、嫡出子とまったく同じ権利を有しています。
結婚していようがしていまいが法律的メリットは変わらないのに加え、女性の経済的自立が進んだことも結婚が減っている理由の1つです。今のフランスには専業主婦というコンセプト自体なく、ほとんどの女性が仕事を持っている。経済的な理由で結婚するメリットはないわけです。というより、フランスの男女にとってお互いが自立して、社会の中で役割を持っていることは非常に重要で、そこがあって初めて恋愛関係が成り立ちます。
■増える「複合家族」という存在
一方で、そもそも男女ともに「一生この人と一緒にいる」という感覚も日本人に比べると強くないかもしれません。それゆえに、結婚しなかったり、結婚しても離婚したり、再婚したり……とそれぞれが自分に合った生き方をしているわけです。
こうした中で増えているのが、「複合家族」の存在です。例えば、パートナーと離婚や同棲解消して、自分か相手、あるいは双方が新たな相手と子どもをもうけたり、その相手に連れ子がいた場合などは、「新しい家族」が増えるという認識です。フランスでは離婚をしても両親に親権が残るため、クリスマスなんかは子どもを軸に元両親と、その新しいパートナー、あるいはその子どもなどが一斉に集まってお祝いすることもあるわけです。
その時々の状況によっても変わってきますが、例えば離婚してパートナーがいない場合、ある1週間は1人で過ごし、ある1週間は子どもと2人で過ごし、またあるときは元パートナーの家族も交えて過ごすなど、「過ごし方」も多様化しています。大変に聞こえるかもしれませんが、実際にやっている人は自分1人の時間や子どもとの時間を一層大切にするようになった、と話しています。
子どもの側からすると両親が別れるのは複雑なものですが、それでも子どものために我慢しないほうがいいと思う。親も1人の人間だし、幸せを追求する権利がある。それに一緒にいたってけんかばかりでは、子どもとしても辛いものです。
もちろん、特に子どもがいる場合、離婚するという決断は簡単にはできないものです。社会やほかの人の目が気になったり、経済的な安定や孤独感、さらには目に見えない不安といったものもあるでしょう。
ですが、そういうときは自分に問いかけてください。本当に今のパートナーと一緒にいることが子どもにとって幸せなのかどうか。両親がいつもけんかしていて、不幸せで悲しそうな家にいることが子どもの幸せにつながるのか。愛も別れる勇気もない両親のもとにいるより、子どもを含めて全員が幸せになれるベストな別れ方を模索するほうが健全だと私は思います。
離婚は「失敗」ではなく、人生で次の段階に進むためのステップです。夫婦間における愛は終わるかもしれませんが、子どもと両親の間にある絆はなくなることはありません。日本で共同親権を求める動きが広がっているのはこのこともあるでしょう。
フランスが日本と結婚や恋愛において最も違うのは、「夫婦の関係」と「家族の関係」は違うということかもしれません。フランスは結婚しても「カップル」というくくりは大切で、相手には恋愛感情を抱いていたい。だから愛情がなくなると離婚する。
ただし、前述の通り離婚したとしても、子どもを軸として家族の関係は続きます。だから別れても、「元家族」だけで集まったり、新たなパートナーなども一緒に集まったりするのです。子どもにとっては、親はいつまでたっても親なのです。
■パートナーがいないと「かわいそう」?
フランスはカップル文化なので、パートナーがいない人は「かわいそう」と見られがちなところがあります。そして、好きになった相手とすぐに一緒に住む人は多い。でも、カップルでずっと一緒にいたい人もいれば、そうじゃない人もいる。
例えば、知り合いのカップルは離婚してからどちらも1人でずっと暮らしています。男性はモテるけれども、本を読んだり1人で過ごす時間も大好きな静かなタイプ。一方、女性はボーイフレンドもたくさんいる、社交的なタイプ。2人とも性格は全然違いますが、共通して1人暮らしが気に入っている。
つまり、人によって「最善の在り方」や「最善の生き方」は違うわけです。ある人にとっては結婚して家族を持つことが最善だけれども、別の人にとっては結婚せずに、1人暮らしを続けながらたくさん恋愛をすることがベストかもしれない。フランスには国民全員にとって「理想の生き方」というのは存在しないのです。幸せの在り方や生き方は個々によって違う。それが言葉だけじゃなく、意識として認められているのがフランスです。
ドラ・トーザン :国際ジャーナリスト、エッセイスト