「私のこと覚えているかな」 ご法度だった父への連絡 20年越しの会話に涙

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1/27(月) 8:40配信

沖縄タイムス

[Re婚の先に 親は子は]父母のはざまで(上)

私のこと、覚えているかな。知らない番号の着信だと、取ってくれないかも-。不安いっぱいのまま、意を決してかけた電話の向こう側から、懐かしい関西弁が返ってきた。「どないした、なんかあったんか」

【写真】父と一緒に撮ったスマホ画像に視線を落とすマユミさん

本島南部の会社員マユミさん(37)=仮名=が、20年ぶりに聞く父(72)の声だった。突然の娘からの連絡に驚き、動揺しながらも、ゆったりとした語り口は昔と変わらない。5年前のことだ。

その日、母(75)が1人で暮らす本島内の実家を訪れたマユミさんは、こっそりと母の携帯電話を検索し、父の連絡先を書き留めていた。両親の離婚で幼少期を過ごした関西地方を離れて以降、関西に残った父との接触は考えもしなかったこと。母が、それを頑として望まなかったからだ。

「お母さんの前で、お父さんのことを良く言うのはご法度。私の使命は、お母さんが『幸せ』と言いながら死んでいく姿を見守ることだと思ってきた」。父に電話をかけようと決心したのは、母の病気がきっかけ。しばらく前に、認知症と診断されていた。

物忘れが目立ち、被害妄想も強くなっている。そんな母の様子を一通り聞いた父に「1人で抱えて大変やったなあ。偉かったなあ」とねぎらわれると、自然と涙がこぼれ落ちた。20年越しの会話は時間にして15分ほど。ただし一番伝えたかったのは、母の話ではない。

「近いうち、そっちに行く用事がある。会いたいねん」

■母を思い隠した本心「私はお父さん嫌いだよ」

関西地方の都市部で、マユミさん(37)=仮名=は幼少期を過ごした。何かにつけ言い争う父(72)と母(75)の記憶は、3歳下の妹が生まれた病院から始まる。

年1回、胸躍るはずの家族旅行は「面倒くさい慣例行事」だった。長距離移動の車中は直接話さない両親の仲介役となり、温泉宿で妹が父との入浴を望むなら「私はお母さんと入らなければいけない」と敏感に反応した。

離婚はマユミさんが中学1年、妹が小学4年の時。両親と父方の祖母が同席した場で、母は娘に問い掛けた。「一応聞くけど、どっちに行く?」。空気を読めば、答えはおのずと決まっていた。

姉妹の親権は母が持ち、母のルーツがある沖縄へ3人で移り住んだ。以来、関西に残った父は、母とは必要最小限の連絡を取り、妹とも何度か会ったようだが、マユミさんとは交流を絶っていた。というより、マユミさん自身が母の顔色をうかがい、会いたい感情を封印した。父を「忌み嫌う存在」と遠ざけた。

成長するにつれ、顔立ちや体形が父方に似てきた娘に、母はいら立ちを強めた。時に、靴下の脱ぎ方やバイキングで選ぶ好物まであげつらい「何もかもお父さんやおばあちゃんにそっくり。やっぱりあんたはあっち側の人間ね」と不機嫌になるため、マユミさんはそのたびになだめるように言った。「私はお父さんもおばあちゃんも大嫌いだよ、縁を切ったんだよ」

思い出に残る父は穏やかな性格で、休日にはよく姉妹を外に連れ出し遊び相手になった。母がなぜそこまで拒絶するのか理解に苦しんだが、時がたった今は「誰よりも幸せな夫婦関係を描いていたのに、かなわなかったことへの反動だった」と推し量る。

高校時代を振り返ると、厳しい家計状況の中でも、マユミさんがアルバイトをせずに部活に打ち込めるようサポートしてくれたのは母だ。「おかげですごく充実した学校生活を送れた」と感謝する一方、大好きな絵や歌を学ぼうと上京を志した途端、猛反対したのも母だった。「お母さんを捨てて幸せになるの?」。繰り返しそう迫られると、夢を追う心はなえていった。

そして高校を卒業してすぐに県内で就職。妹が10代で若年出産し、早くに家を離れたのとは対照的に「母を置いていってはいけない人生」を背負ってきた。

「しっかり者だと自分でも思う。私がしっかりしなきゃいけないと常に意識してきたから」。どんな場面でも本心を押し殺し、周囲の意向をおもんぱかって行動する。決して弱音を吐かず、何でも自分で解決する。母との日々で身に付けたのは、そんな処世術だった。(学芸部・新垣綾子)

離婚後の子の養育探る

全国一離婚率が高く、1日平均で約10組が離婚している沖縄。低賃金の労働環境や養育費の不払いなどを背景に、多くのひとり親世帯が困窮し、子どもたちの育ちに影を落としています。一方、家庭裁判所への面会交流調停の件数が高止まりするなど、自由にわが子と会えない別居親の思いも切実です。

国内では近年、離婚すると父母の一方にしか親権を認めない「単独親権」制度に対し、両親が親権を持つ「共同親権」導入の是非を問う議論が広がっています。離婚や別居後の子どもの養育はどうあるべきなのか。沖縄のさまざまなケースを中心に考えます。

「離婚」ではなく「Re婚」と表記したタイトルには、父と母、親と子の関係を「再構築(Reconstructon)」「再出発(Restart)」する意味を込めました。

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