養育費16年ぶり増額 最高裁、基準見直し 「数年ごとの変更必要」と識者

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20191223-00000503-san-soci

12/23(月) 7:37配信

産経新聞

 夫婦が離婚する際に取り決める子供の養育費や別居の際に生活費などを支払う婚姻費用について、最高裁の司法研修所は社会情勢の変化などを踏まえて算定基準を16年ぶりに見直し、23日付の研究報告書で公表した。現行の基準では低額すぎるとの批判があり、夫婦の収入によっては月1万~2万円程度の増額となる。

離婚訴訟で養育費を決める際には、裁判官らの研究会が平成15年4月に公表した「簡易算定方式」に基づく算定基準が使用されている。

夫婦の収入と子供の年齢や人数に応じて、子供と離れて暮らす親が支払うべき養育費の目安が表になっており、機械的に迅速に計算できることから実務の現場で広く定着してきた。

しかし、従来の算定基準は公表から16年が経過し、「税率改正や物価変動を反映していない」といった批判があった。このため、司法研修所は昨年7月から算定基準の見直しに着手。東京、大阪両家裁の裁判官4人に研究を委嘱していた。

新しい算定基準ではスマートフォンが子供にも普及し、通信費の支出が増加するなど近年の家庭の支出傾向を踏まえ、計算方法を見直したほか、計算の基礎となる税率や保険料率を最新のデータに更新した。結果、夫婦の収入や子供の人数によっては月1万~2万円程度増額されることになった。最大で6万円増えるケースもあったが、一部は現状と変わらなかった。

養育費は子供が成人するまで支払うのが一般的。令和4年4月の改正民法の施行で成人年齢が18歳に引き下げられるが、大半の子供は18歳段階で経済的に自立していないとして、養育費の支払いは現行通り20歳まで支払うべきだとした。

報告書は23日午前、裁判所のホームページにも掲載される。

■数年ごとの変更必要

ひとり親家庭の貧困の一因ともいわれてきた養育費や婚姻費用の算定基準が見直された。全体的に増額傾向となったが、実務面での影響を考慮し、小幅程度にとどまった。16年ぶりとなった改定に対し、識者からは数年ごとに定期的な見直しを求める声も出ている。

新基準では、夫が自営業で年収750万円、9歳と1歳の子供を養う妻は会社員で年収100万円だった場合、夫が支払う婚姻費用は従来の「月18万~20万円」から、「月20万~22万円」に増額される。

日本弁護士連合会(日弁連)は平成28年、現行の約1・5倍となる独自の算定方式を発表し、改善を要請。このケースでは「月27万円」になる計算だ。

だが、新基準に、この方式は採用されなかった。理由は「実務に定着しているところを大きく変える必要はないとの判断」(裁判所関係者)だ。早稲田大の棚村政行教授(家族法)は「大幅な見直しとなれば、これまでの調停や審判なども変更や見直しが必要になる。最小限の改定はやむを得ない」と理解を示す。

一方で棚村教授は15年以上、改定されなかったことを問題視。「数年ごとに最新の統計データに基づく見直しが必要だ」と指摘し、裁判所だけでなく、弁護士会や厚生労働省などの関係機関と連携した対応を求めている。(大竹直樹)

【用語解説 養育費と婚姻費用】 養育費は子供を引き取っていない親が支払うべき費用。婚姻費用は家庭生活を維持するために必要な費用で、別居中の生活費も含まれる。民法は子と離れて暮らす親に「配偶者や子に自分と同程度の生活水準を保障する義務」(生活保持義務)を定めている。離婚の際に具体的な金額は話し合いで決めるが、まとまらなければ、養育費の支払いを命じるよう求める家事審判などを申し立てることができる。

4年前