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離婚後に支払う子どもの養育費について、調停や裁判で用いられる算定表が見直されることになった。現行の基準は低額で、母子家庭が困窮する要因になっていると指摘されていた。
最高裁の司法研修所が詳細を来月公表する。社会情勢を反映して見直し、条件によっては増額になるという。ただ、基本的な考え方は従来の基準を踏襲するため、大幅な変更にはならないようだ。議論をこれで終わらせず、当事者の状況を踏まえて引き続き検討を重ねていく必要があるだろう。
養育費の算定方法について法令に定めはなく、夫婦で合意できない場合は調停などで決める。現行の算定表は2003年に裁判官らの研究会が法律雑誌に発表し、実務で広く用いられてきた。
ただ、15年余にわたって一度も見直されず、消費税の増税や物価の変動も反映されていない。日弁連は16年に、金額を1・5倍程度に引き上げる算定基準をまとめ、改善を求めていた。
養育費をめぐっては、算定額の低さだけでなく、見過ごせない問題がある。受け取れない場合が多いことだ。厚生労働省の16年度の調査では、母子世帯の7割以上が受け取っていなかった。
法的な手続きによる取り立てや差し押さえは可能でも、母子世帯にそのための時間の余裕や経済的な余力があることは少ない。それが、逃げ得を許し、泣き寝入りを強いる現状につながっている。家庭内暴力から逃れて離婚し、最初から諦めてしまう場合もある。
当事者任せでは子どもに不利益が及ぶ。その状況を改めようと、独自の支援策を打ち出す自治体が出てきた。兵庫県明石市は、民間の保証会社と提携し、不払いの養育費の一部を補填(ほてん)する事業を始めている。同様の取り組みは大阪市などにも広がりつつある。
養育費について、主要国の多くは行政が関与する仕組みを設けている。スウェーデンやフランスには、行政が立て替えて払い、後で徴収する制度がある。米国では、給与から天引きしたり、税の還付金と相殺したりする仕組みが全ての州にあるという。
十分な養育を受けることは、子どもの権利だ。離婚しても、成長を支えていく責任は両親にある。同時に、行政には子どもの権利を保障する責務がある。
養育費を子どもの元に届けるために、公的な関与をどう進めるか。強制力を伴う介入をどこまで認めるのか。離婚制度のあり方を含めて丁寧に議論したい。
(11月19日)