養育費不払いの氏名公表は、子どものためになるのか? 考えられ得るリスク

相変わらず何が言いたいのかよくわからない突っ込みどころ満載の記事ですが、親の離婚を子どもが言えないのは社会の問題だと思いますよ。社会学者としてはけっこう痛いよね。

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(写真:アフロ)

明石市が、離婚後の養育費の取り立てのために、不払い者の氏名をホームページで公開するといいます。来年の4月の実施を目指しているが、この案に賛否が寄せられています。

私自身、このテーマでの執筆について、少しの間思案してきました。養育費の支払い率は、4人に1人にすぎません。これを取り立てることは、子どもの貧困解決に結びつくようにみえます。

それと同時に、明石市にとってもよく考えられたシステムであることも、透けて見えます。

きちんと養育費が支払われれば監護親の収入にカウントされ、その分、児童扶養手当などを削減できます。市の財政としても、養育費を取り立てることは、願ったりかなったりでしょう。そのための費用は、「氏名公表」ですので、弁護士資格を持つ職員の人件費は必要ですが、圧倒的に経済的なやり方です。

明石市は、1年前に、90万円の予算で、18人に対して「養育費立替パイロット事業」を行うと宣言しました。市が保証会社に養育費の取り立てを業務委託し、そのための掛け金の費用を、単純計算だとひとりあたり5万円、補助するやり方です。

その掛け金は、養育費1か月分です。もしも養育費の滞納があったら取り立て、12か月までは保証するというものです。立て替え額が12か月に達したら、契約は更新できず、終了です。更新時にはまた改めて、半額の費用がかかります。

保証会社も営利企業ですから、支払いが滞ることがわかる相手と契約をしてくれるのかという問題があります。また確実に支払われるだろうという相手であったら(非監護親が公務員や大手の会社の正規雇用などの場合)、利用者は保証料を高いと感じるでしょう。そもそも保証される養育費が、最大12か月分です。

おそらくいろいろと困難がでるのでは思っていました(不払いは3人いたそうです)。最終的には、「氏名公表」という方法に落ち着いたということなのでしょう。このインターネットの時代に、世界中に氏名が公表されるというのです。世間体を気にする人には、大きな脅しとなり、不払いへの抑止力となるでしょう。

しかし、子どもの立場になるとどうでしょうか。子どもは、自分の親が養育費の不払い者であること、つまり自分に愛情をかけてくれていないこと、場合によっては両親が離婚していたことなどを、皆に知られたいと思うでしょうか。離婚した親をが「養育費不払い者」であると、子どもに烙印(スティグマ)を押すことになりかねません。子ども自身がいじめの対象になるなどのリスクがあります。何よりも子ども自身が傷つきます。

さらにいえば、強制的に氏名を公表することがこのように判明してる場合、離婚時の対立はさらに激化するでしょう。必然的に、養育費の取り決め額は、いまよりもさらに低くなることが予想されます。また不払いを市に申告する場合、報復が怖いと感じる人も当然いるでしょうし、逆恨みも当然発生します。

明石市長は養育費と面会交流を車の両輪ととらえ、熱心に実施を促しています。こうしたことは、いままで家庭裁判所の領域でした。それを地方公共団体が代行し始めていることは、実は大きな変化です。

面会交流や養育費の取り決めなしに離婚や別居を許さないという「親子断絶防止法(改名して、共同養育支援法になりました)」は、必ずやる取り決め窓口は行政であり、多くの法曹関係者やDVの支援者が、危険だと警鐘を鳴らしていました。明石市は、10人も弁護士資格を持つ職員を雇用し、万全の体制を整えていると思うのですが、そうでない行政も多くあります。いまだに、住所の秘匿の支援措置を受けているDV被害者の居場所を漏らす事件などが頻発しているというレベルです。

家庭裁判所のように、調査官や裁判官がいて、また該当者も弁護士を付けることができるわけでもありません。それなりの体制を整えられるところは少ないでしょう。当事者と専門家ではない行政の窓口が関与すれば、法の保護もなく、「夫婦の力関係」がそのまま反映してしまう懸念もあります。面会交流に際して事件が起これば、責任は誰がどのようにとるのでしょう(熱心に面会交流を後押ししてきた明石市では、いままでトラブルはなかったのかも気になります)。

養育費にも同様の懸念があります。氏名を公表することで、逆恨みの殺人事件などが起こったら、どのように誰が責任をとるのでしょうか。この制度は、氏名公開の法的根拠がないので、実施は難しいだろうというのが多くの専門家の見立てです。やはりここは国が、きちんと養育費の建て替えの制度を作り、国自身が不払い者から取り立てるなどのシステムを作るべきではないのでしょうか。

そもそも養育費は、離婚後もなお親の資力に子どもの養育の質が左右されるシステムです。できれば、子どもに既婚、離婚、未婚、死別、収入を問わず手当てを出し、さらに教育分野に関することは国が責任をもって費用負担すれば、子どもの貧困はかなりの部分緩和されます。

本人が納得しない養育費の厳しい取り立てが何を生むのか、私たちは他国の歴史から知っています。「養育費の不払いの氏名を公表するならば、面会交流を責任もって実施できない監護親にも罰金を払わせ(いまでも、「間接強制」という制度があり、事実上「罰金」のように機能していますが)、さらに氏名をホームページで公開しろ」という要求がでてきたときに、明石市はどうこたえるのでしょうか?

離婚後の親子が安心して暮らせる制度構築は、急務です。そのためには何が必要なのか、明石市の取り組みは、議論に一石を投じたことは確かです。みなさんはどのような取り組みが必要だと思いますか?

*よければご意見をお寄せください。sendayukiあとまーく(@)gmail.comまで。いただいたご意見は、ヤフーニュースなどで公表することがあります。いつもお返事を差し上げられなくて申し訳ありませんが、丁寧に読ませていただいています。

5年前