離婚相手、養育費不払いなら氏名公表 全国初、兵庫県明石市の条例検討に賛否

 兵庫県明石市が、離婚相手が養育費を支払わない場合、氏名を公表する全国初の条例制定を検討している。同市の泉房穂市長は「ひとり親家庭の困窮を防ぎたい」と意気込むが、親の氏名公表は子どものプライバシー侵害につながりかねず、「子どもを守るつもりが、いじめなどを誘発する恐れがある」と危惧する声も出ている。子どもの人権や法律の専門家の賛否も分かれており、条例化には曲折が予想される。(藤井伸哉、小西隆久)

【写真】明石市の離婚届。養育費や面会交流について取り決めの有無を記入する欄もある

検討中の条例案は、裁判などで養育費の金額が確定した市民が対象。ひとり親から申し立てを受けた後、市が支払いを「勧告」し、応じなければ「命令」に移る。それでも従わなければ、ホームページなどで氏名を公表する。弁明の機会を設け、失職で収入がないなどやむを得ない場合は公表しない。来年4月の施行を目指している。

「氏名を公表したいわけではない。ひとり親家庭が泣き寝入りしないで済むよう、養育費を払ってもらいたいだけだ」と泉市長は狙いを強調する。

厚生労働省の2016年度調査によると、離婚相手から養育費を「受けている」母子家庭は24・3%にとどまり、不払いが困窮の一因になっている。同市は18年、不払いの養育費について年60万円を上限に保証する独自事業を始めるなど、積極的に対策を進めている。これまでに18人の申請を受け付け、既に3人に支払われている。

国も動きだしている。来年4月には、養育費を支払う義務がある人の預貯金を裁判所が金融機関などに照会し、差し押さえやすくする仕組みを盛り込んだ改正民事執行法が施行される。

明石市の条例案はこの改正法を受けた制度だが、法は氏名公表までは規定していない。これに対し、弁護士でもある泉市長は「厳格な要件と適正な手続きを定めれば条例化は問題ない」と自信を見せる。

人種差別をあおるヘイトスピーチ(憎悪表現)を抑止するため、大阪市が16年に制定した条例にも氏名公表の規定がある。ただ、専門家の間ではたとえヘイトスピーチでの公表であっても人格権侵害の議論があり、「養育費の場合、支払いを受ける親子のプライバシーに関わるため、より高度に個人情報を扱う必要がある」とも指摘される。

ひとり親家庭支援に詳しい神戸学院大現代社会学部の神原文子教授(家族社会学)は、条例案の趣旨や明石市のこれまでの取り組みを評価した上で「氏名公表は脅しともとれる。強制執行的な発想より、支払いへの説得が重要だ。督促を市職員が仲介したり、市による立て替え制度を充実させたりした方が実効性が高まるのでは」と話す。

【棚村政行早稲田大教授(家族法)の話】 国や都道府県の制度が不十分な中、条例化検討は評価できる。ただ、氏名公表は資産隠しなど刑事事件相当の悪質なケースに限るなど厳格な要件を設け、「伝家の宝刀」として抑止効果につなげる方がよい。行政の中立性をどう担保するかなどの課題もある。公表することで得られるメリットとデメリットをしっかりと市民に説明するべきだ。

【子どもの虐待問題に詳しい曽我智史弁護士(兵庫県弁護士会)の話】 社会問題として捉える姿勢は評価するが、アプローチがおかしい。「離婚しても今まで通り父や母として信頼関係を持って付き合ってほしい」と考えるのが子どもの本音。親子関係に悪影響を与え、子どもの福祉や利益を損ねる恐れもある。公表により親同士や親族間の対立をあおり、余計に払ってもらえなくなるリスクもある。

5年前