事実婚をあえて選んだ夫婦たち、その「事情」と生の声(上)

 欧米と比べると、日本は婚外子が非常に少ない国だ。そして事実婚もまた少ない。とはいえ、個人や家族のあり方が多様化している今、今後増えていくかもしれない。現在、事実婚を選んだ夫婦に、その生の声を聞いた。(取材・文/フリーライター 武藤弘樹)

● 法律婚が主流の日本 あえて事実婚を選ぶ訳

事実婚という形の結婚がある。婚姻届を出して名字を同一にする法律婚が日本では一般的だが、中には事実婚を選ぶカップルもいる。

「法律婚はしていないけれども、実際のところこれは結婚しているよね」と当人たち、および周囲が認めていれば事実婚はだいたい成立していることになる。法律婚と事実婚の大きな違いは入籍しているか否かの一点のみで、同棲や内縁に比べてもより確固とした結婚然たる事実婚だが、諸外国に比べて日本は事実婚を選ぶカップルの割合が圧倒的に少なく、国内では「結婚したのならどうしてわざわざ事実婚を選んだの?」という見方が主流である。

事実婚カップルが別れたときであっても慰謝料は発生する点を見ても、おおむね事実婚と法律婚は変わらないのだが、それでもあえて事実婚を選ぶからにはそこにはそれなりの理由があるのであろう。

本稿では法律婚と事実婚の違い、諸外国の事実婚事情のざっくりとした説明に加え、事実婚をしている夫婦の生の声を紹介したい。

● 法律婚と事実婚の違い 事実婚も多種多様

まず法律婚と事実婚の違いは何か。事実婚のメリットとして次のようなものが挙げられる。

 ・離婚しても戸籍にバツがつかない。
・姓を改めなくてよい(夫婦が別々の姓で生活できる。戸籍上姓を変える必要がない)。

これに加えて、あとは意識的なところだが、

・「嫁ぐ(女性が男性の家に入る)」感覚ではなくなるため、男女対等な関係を維持できる。親戚付き合いから距離を保てる可能性もある。
・「事実婚です!」と公言しておくことで周囲は「何か理由やそれなりの意思があって法律婚ではないのだな」と考えるので、周囲の理解を得られやすくなる場合がある。

などである。一方デメリットは、

・子どもの親権は母親になる(共同親権ではない)。
・お互いの財産に相続権がない(遺言である程度なんとかなるが、相続税の面で法律婚の方が有利)。
・配偶者控除が受けられない。

で、こちらの意識的なところとしては

・法律婚のような誓約を交わすわけではないので、結婚に対する気持ちがフワフワしたり、夫婦間で意識に差が生まれるリスクがある(と耳にしたのだが、法律婚でも夫婦間で結婚に対する意識に差は生まれる可能性はあるので事実婚と変わらないといえば変わらない。とはいえ実際事実婚をしている人は、意識の差が生まれた理由を「事実婚だからだ」と帰結しやすいところはあるかもしれない。それだけ特殊な選択をしているという自覚が当人たちにあるためであろう)。
・周りから奇異の目で見られる可能性がある。

などが挙げられる。

お金の面だけ見てもだいぶ大変そうな事実婚を選択する主な理由は、上記の事実婚のメリットに加え、「戸籍制度に反対」「法律婚の手続きが面倒」などがあるそうである。

しかしひと口に事実婚といっても形はさまざまあるようで、なんとなく長いこと一緒に暮らしているうちに周りに説明が面倒くさくなって「事実婚していることにしよう」と合意するカップルや、「私たち事実婚します」という契約書を作成して、しかと心構えのうえ臨むカップルもいる。

であるから、事実婚は確かに法律婚に比べれば異色で「事実婚なる少数派」でひとくくりにされがちなのだが、個々のケースを見ていくと内情は十人十色なので、周りが「事実婚」とだけ聞いて印象を決め付けてしまうのは他の判断の可能性を逸しているもったいないことのような気もする。事実婚には多様性があるのである。

● 諸外国の事実婚事情 事実婚カップルが多い背景には

日本ではかような現状の事実婚だが、海外は事実婚が非常に多い。

厚生労働省が発表している2015年度版の資料(平成27年版厚生労働白書 婚外子割合の比較)によると、2006年時点で婚外子の割合は、

日本……2.11%
英国……43.66%
フランス……49.51%
ドイツ……29.96%
スウェーデン……55.47%
アメリカ……38.50%

となっている。

婚外子の割合が高い国にはヨーロッパが多いが、これには事実婚と法律婚に大差がないことや、国民の認識が事実婚に肯定的、あと法律婚に費用と手間がものすごくかかる国が多い、離婚するカップルが多い、離婚するのがすごく面倒な国もある、といったことがその理由であろうと思われる。

 フランスではPACS(パックス)という制度があって、これは「生活を共にする2人なら、法律婚した夫婦と同様に社会保障等を受けられるようにしましょう」というもので、1999年に制定された。このあたりの時期から欧州各国でも同様の流れが始まり、オランダでは「登録パートナー制度」、スウェーデンでは「sambo(サンボ)」といった、法律婚によらない婚姻関係を選択するカップルが増えていった。

何しろ法律婚するとなると別れたときのことも考えいろいろ面倒だが、法律婚のメリットほぼそのままでデメリットをなくした事実婚ができるとなったのだから、これを利用しない手はない。フランスのPACSはLGBTのカップルに向けて考案された制度らしいが、現在では異性愛のカップルも広く利用しているとのことである。

諸外国と日本では結婚に対する価値観や税制と経済、それらに基づく社会保障のあり方がまったく違うので、比較して優劣を論じる必要はないと思うが(もちろん「日本に旧態依然としてある、嫁を道具として見なすような封建的な結婚制度はぶち壊せ!」と考える人は大いに比較するのがよろしいと思うが)、婚外子の割合からしてここまで違うのかということは純粋に興味深く思える。“婚外子の割合”が示した数字の差が、事実婚に対する認識の差、と考えてもいいかもしれない。

海外で事実婚をした元?日本人のブログを読んでいたら、「事実婚には、法律婚に必要とされる書類の類いはいらない。相手を大事にして共に生きていくのだという気持ちと覚悟のみが必要とされる。すなわち純粋な愛情によって成立するのが事実婚」といった趣旨のことが書かれていて、なるほどと思った。何事も捉え方次第であるが、なんとなく法律婚を選択した既婚者(筆者含む)にはなかなか持ち得ないであろう視点である。

もちろん法律婚をした人たちも生半可な覚悟で婚姻届を出したわけではないので、つまり法律婚も事実婚もみんな覚悟を持ってやっているのだなと、お互いの覚悟を軽視するのはやめましょうねと、本稿は全体的にラブ&ピースな方向に話を落ち着かせたい次第である。

>>(下)に続く

武藤弘樹

5年前