https://news.yahoo.co.jp/byline/puradonatsuki/20190831-00140563/
前回、日本人パートナーによる実子連れ去りが、ハーグ条約に反していると大きな国際問題になっていることについて書いた。
(注)ハーグ条約:国際的な子の奪取の民事上の側面に関する条約。一人の親が、もう一方の親の同意なしに16歳未満の子どもを連れて加盟国間の国境を超えた場合、子どもは元の国に戻すということを定めた条約。日本については2014年から、フランスは1983年から発効
その中で、パリの弁護士事務所Zimeray-Finelleのジェシカ・フィネル弁護士が国際連合人権理事会に、日本に連れ去られた子どもの保護に介入するよう訴え出たことに関して言及した。同弁護士の発表を元にもう少し深く掘り下げてみたい。
日本では、両親の別離によって年間約15万人の子ども(日本国籍および日本と他国の二重国籍。子どもの人権保護に努めるNPO団体、絆・チャイルド・ペアレント・ユニオンの発表による数字)が片方の親によって連れ去られていることを挙げ、「日本政府は『児童の最善の利益』について明記している国連児童の権利条約第3条(注)を遵守していない。東京国際大学の小田切紀子教授が強調するように、このような子どもたちは酷いトラウマにさらされ、長期的には学校教育で落ちこぼれてしまったり、ハイパーセクシャリティーやそのほかの自己破壊的な行為など、自らを危険にさらすような行動をするようになることがある」としている。
(注)国連児童の権利条約第3条:「児童に関するすべての措置をとるに当たっては、公的若しく は私的な社会福祉施設、裁判所、行政当局又は立法機関のいずれによって行われるものであっても、児童の最善の利益が主として考慮されるものとする」
日本政府の責任は重大
続いて、日本政府は実子誘拐(注:フィネル弁護士の発表内では連れ去りではなく誘拐と言う言葉が使用されている)を容認しているとその責任を厳しく追求している。本文第3、4段落では、「日本では、実子誘拐は民事とみなされているため、被害届を出そうとしても、日本の警察は受理しない。それどころか、子どもを取り返しに行こうとすると、かえって刑事訴訟されることになると脅すことさえする。そして、家庭裁判所は子どもの精神安定のためと称して、実子を誘拐した親に親権を与える。もう一方の親が、裁判所が定めた場所で月に2時間から4時間というごくわずかな面会交流権利を得たとしても、親権をもつ親が了承しなければ、裁判所は何もしない。日本政府はこのような犯罪行為に対して見て見ぬ振りをし、最悪の場合でも奨励しているようなものだ。問題が起きていることを知りながら、実子誘拐を優遇するようなシステムを続け、子どもの権利、特に日本も署名した国連児童の権利条約第9条にある「児童が父母との接触を維持する権利」を侵害し続けている」としている。
日本の外交および文化公的機関が実子誘拐に役立つようなセミナーをしたのか?
また、第5段落では、2018年5月15日にパリ日本文化会館で外務省と日本弁護士連合会が共催して開いた日仏離婚・親権制度やハーグ条約の仕組みと内容に関するセミナーについても言及している。このセミナーの中で、フランスで生まれた実子の誘拐をして日本に連れ去るテクニックを暗に示唆したというのだ。
「フランスで日本人パートナーが実子を誘拐し日本に連れ去るという事件が数件起きているにもかかわらず、パリ日本文化会館は2018年5月、『国際結婚に伴う親権(監護権)とハーグ条約セミナー』開いた。アメリカのNPO団体Bac Homeは、このセミナー中に、どのようにしたらもう一方の親の同意なしに日本に子どもを連れ帰り、その後、子どもがフランスに送り返されるのを回避することができるか、より簡潔に言えば、どうすれば問題なく子どもを誘拐することができるかについての説明がなされたと発表している。これは、1980年に採択されたハーグ条約の侵害にあたる。」とし、フィネル弁護士は、「日本の外交および文化公的機関が実子誘拐に役立つようなセミナーをしたのが真実であるならば、非常に重大なスキャンダルだ。私たちは在仏日本大使館に説明を求める」と言っているということだ。
最後に、フィネル弁護士は、2005年から子どもに会うことができないでいる母親1人と、片方の親に会うことが全くできない、あるいはかなり限られた時間しか会うことができない子どもたち9人の名を挙げている。そして、このような状態に置かれている子どもたちのために、国際連合人権理事会に、次のような手段で介入することを求めている。
1. 国際連合人権理事会に上記のような状態について報告する独立した専門家、国連特別報告者の任命
2. 日本政府に対して度重なる子どもの権利の侵害をやめるように勧告する決議の採択
子どもを連れ去る親のケーススタディーで学ぶスタイルのセミナー
ところで、アメリカのNPO団体Bac Homeは、上記のパリ日本文化会館で2018年5月に開かれた『国際結婚に伴う親権(監護権)とハーグ条約セミナー』の内容を録音したBac Home 音声資料をネット上で公開しているので、これを聞いてみた。子どもを連れ去る親のケーススタディーで学ぶスタイルのセミナーだ。また、Bac Homeの上記ページから、テープ起しをした資料にも飛べる。
私のあくまで推察に過ぎないが、以下、講師の弁護士が次のようなことを言っている部分が問題視されているのではないだろうか?
40分目:(フランスから日本に連れ去られた)子どもの意思が(フランスへの)返還拒否事由になることもあることを説明し、その上で「学校で例えば差別を受けているとか、そんな場合には子どもの異議って通るんです。あくまで子どもがフランスに返還されることを望んでいないことってところがポイントです」と言っている。
44分目:「(連れ去られた子どもをフランスに返還しなくてもいいということも例外的にはあるが、認められにくい。だから、日本に)戻って来る前にキチンとできることを、このフランスでできることをやってから戻ってくる」。そしてその「できること」とはDVの証拠を警察への被害届、病院の診断書、シェルター収滞在証明、パートナーの薬物・アルコール依存の証拠ですよと説明している。
外国で暮らす悩める日本人妻たち
子どもの連れ去りは国境を越えてであれ、日本国内であれしてはいけないことであることは確実だ。しかし、上記のセミナーには多くの日本人が集まったとの(70名が登録)こと、日本文化会館館長がはじめに「このハーグ条約関係、あとお子さんのですね問題ですね、あとDV、まぁその辺の話の相談は非常に受けます」と6分目あたりで話していることを聞くと、国際結婚をして悩んでいる日本人がいかに多いことかと思い、胸が痛むのも事実だ。
外国で暮らすのはやはり難しいのだ。言葉の問題はもちろん、日本では後ろ盾となる実家などないし、そのうえパートナーとうまくいかなければ辛いものがある。男女平等は日本より浸透しているが、それゆえ「君は稼ぎが少なすぎるよ。いったいなんだって僕が君を養わなきゃいけないんだい?」と言って離婚に持ち込む男性など珍しくもない。夫婦でも銀行口座はそれぞれ個人口座というのが普通だ。男女の給料差は歴然として残る(男性の方が18.5%高い)うえ、おまけにこちらは外国人でどんな仕事にでもアクセスできる訳ではないのに「そこまで言うか?」と思うが……。
私自身がフランス人と結婚しているので、「うちの娘にもフランス人と結婚してほしいわー。そしたら私もパリに行けるし」などと冗談交じりに言う人もいるが、そういう人には「慎重にね」といつも答えることにしている。