離婚後も円満に子供に会える「共同養育」とは?

 離婚した頃、「お子さんがいなくてよかったですね」と何十回も言われました。当時の私は、そのたびに「子どもがいなくても、悲しみや苦労は一緒」と、心の中で叫んだものです。しかし、夫婦問題を扱う専門家となった今は「子どもがいない私はまだ楽だった」と、心から思えます。それは、親権や養育費の問題、離婚後の親の介護や相続の問題などで元夫婦が争うのを見ているからです。

離婚後、シングルマザーが仕事と子育ての両立に苦労する姿も見ています。一方で、離婚後は自由に子どもに会えない父親たちも知っています。どちらも、葛藤は想像を絶するものです。しかし近年、離婚後も元夫婦が協力して子育てをする「共同養育」の考え方が、日本でも広がりつつあります。なぜでしょうか。

■G7の中で「単独親権制度」を採用しているのは日本だけ

総務省の人口動態統計(2016年)によると、離婚後に親子が会っているのは全体の3割にとどまっています。日本では「子どもを引き取った親(親権者)が育てる」ことが当たり前とされ、別居したほうの親に子どもはなかなか会うことができません。離婚した女性から「元夫が子どもに会わせろと言ってくるんです、どうやったら止められますか」という相談を受けたこともありました。

 日本の法律は「単独親権制度」を採用しているので、父母の離婚でどちらか一方に会えない子どもが増えてしまいます。ところが、世界的には多くの国が「共同親権制度」を採っているのです。G7の先進国の中で単独親権の採用国は日本だけです。

離婚後に子どもに会うことを「面会交流」といいますが、私の相談者で、離婚したくない夫が「自分の娘に会うのに、なぜ面会などという言葉を使わなくてはならないのですか」と、大泣きしたその姿を今も思い出します。離婚時15歳未満の子どもは、両親のどちらと暮らしたいのか、選択ができません。離婚しても父親と母親には変わりがないはずなのに、どちらかと暮らせば、もう一方とは会うことすら、ままならなくなるのです。

離婚後、とくに母親のほうが子どもを父親に会わせないケースが多いといいます。そんな母親は心の奥底に、離婚に至るまでの苦労や我慢、中には恐怖も抱えているのかもしれません。ですから、子どもから父親を遠ざけようとする気持ちもわからないわけではありません。でも、子どもの気持ちにも寄り添うことが大事ではないかと思うのです。「共同養育」の形で、離婚後も両親が子育てに関与できるようにならないものでしょうか。

一般社団法人「りむすび」代表で、共同養育コンサルタントのしばはし聡子さんは、ご自身の経験から「共同養育」の支援をしています。

 しばはしさんは、離婚後しばらくは、元夫への感情から「子どもは絶対会わせたくない」と強固に思っていたそうです。離婚協議はこじれ、弁護士を立てて事を進めました。弁護士が介入すると、夫婦の関係は泥沼化しますが、調停離婚が成立しても、元夫と連絡を取ることすら苦痛になったそうです。調停で決められた面会交流の連絡も避けていたら、元夫から憤りの連絡が入るようになったといいます。

しかし、その後夫婦問題カウンセラーとなったしばはしさんは、面会交流の支援ボランティアをしたとき、ある光景を目にしました。

 母親から子どもを預かったとき、さまざまな注文がありました。「〇〇とか、△△はしないでください」と強い口調で言っている、不機嫌そうな母親の横で、子どもは笑いもせず、じっとおとなしかったそうです。ところが、その子を連れて父親の元へ行くと「パパ!」と、ありったけの笑顔で一目散に駆け寄ったのです。それを力いっぱい受け止め、抱きしめる父親。その光景を目にして、しばはしさんは大きな衝撃を受けたのです。

■離婚をしても、子どもにとっては「父と母」

 「自分には、子どもと父親の関係を断絶する権利はない」と、しばはしさんは気づいたといいます。この後、初めて元夫へメールを送り、「息子と一緒に、夕飯を食べてあげて」と伝えました。

それまで、元夫のメールを無視したり、面会交流も中途半端に対応したりしたのに、元夫は責めることなく「わかった、ありがとう」という言葉で返してくれました。しばはしさんはうれしいと同時に申し訳ない気持ちになり、別れても子どもの「父と母」である関係は変わらないということに、また気づいたのです。

 その後、しばはしさんにとって元夫は「誰よりも自分の子どもを愛してくれる、信頼できる無料のシッター」となりました。ティーンエージャーになった息子さんは、男同士でしか埋められないものがあるらしく、数日間、元夫の元へ泊まりに行くと、少し成長して帰ってくるとか。「女手一つで育てていたら、こんなに彼を変えてあげられなかった」という彼女の言葉が印象的でした。

しばはしさんは今、「共同養育」を広める活動をしています。離婚問題で共同養育まで踏み込んで相談を進めると、養育費にとどまらない手厚いサポートができるといいます。子どもが小さいうちに離婚した場合、母親の一番の心配は教育費でしょう。面会交流がきちんと設けられていれば、その機会に子どもの希望を直接父親に伝えることができますし、それを聞いて快く支援する父親も少なくありません。

 離婚した男性から「自分の子どもに会うのに、嫌そうにされたり、別れた妻の都合ばかり優先されたりしていては、払う気持ちも萎えますよ」という話も聞いたことがあります。そのとおりだと思います。

子どもの可能性を最大限に伸ばすには、両親の力が不可欠ではないでしょうか。離婚後の子育てについて話し合うのはうっとうしいことかもしれません。でも、その壁を乗り越えて、共同養育に踏み出してみようという元夫婦が増えればと思います。

 先日、私は「りむすびコミュニティ」のセミナーに登壇しました。参加者は離婚をした方々ですが、そこで情報を共有したり、懇親会で親交を深めたりすることが癒しとなるそうです。ある男性は「会社では、面会交流のことすら話せません」と言っていました。

■離婚のダメージを癒し、少しハッピーになれる

共同養育の先進国のアメリカでは、実にあっけらかんとそれを実践しています。私のいとこたちもしかり。子どもたちは、ホリデーやイベントがあると別れた親の元を自由に訪れています。また、親の再婚相手やその家族の目の前でも、もう片方の親の話を普通にしています。子どもは、親の再婚によってまた家族が増えたことを楽しんでいるようなのです。

 日本でも、それぞれ事情はあるとは思うのですが、もっと共同養育に寛容になってもいいのではないでしょうか。この記事の冒頭で、離婚をすると想像を絶する葛藤が起こると述べましたが、共同養育によって、子ども、両親、祖父母、家族全員が少し気楽に、ハッピーになれると思うのです。

寺門 美和子 :FP、夫婦問題カウンセラー

5年前