弁護士視点から解説する「離婚と親権」 – 「共同親権制度」導入の可能性

日本では、夫婦が離婚するとどちらか一方しか「子どもの親権者」にはなれません。しかし先進諸外国においては、離婚後も父母が共同で親権を行う「共同親権」の制度が導入されているケースも多いのです。

日本でも夏以降を目処に、法務省が海外の制度を参考にして「共同親権」導入の是非を検討していくとの報道がありました。

本稿では、離婚後の「共同親権」導入が検討されている背景などについて、弁護士の視点から解説していきます。

単独親権と共同親権

現在の日本では、父母が離婚した場合に父母のいずれか一方のみをその子どもの親権者とする「単独親権」制度を採用しています。

では、そもそも日本の「単独親権」の制度と諸外国でみられる「共同親権」の制度は何が違うのでしょうか? 以下にそれぞれの概要をまとめていきましょう。

単独親権について

単独親権とは、前述のとおり父母の一方のみが親権者となる制度です。親権者は、子どもと一緒に暮らし、子どもの財産を管理し、子どもをしつける権利を持ちます。また、子どもに適切な教育を受けさせ、健全に成長できる環境を与えるという義務も負います。

一方で、離婚時に親権者とならなかった親は、親権者としての権利や義務がない状態となります。ですので、子の財産管理や教育方針などについて、子の親権者であるほうの親と話し合う機会があれば、子の財産管理や教育方針の決定に親としての考えを言うことは事実上可能ですが、親権者である親と意見が合わない場合には、最終的に決定する権限をもつのは親権者ということになります。

共同親権について

一方、共同親権の場合には、離婚後も父母が上記のような「親権」を持ち続けます。子どもが両方の親の家を行き来して過ごすケースもありますし、財産管理や教育方針などは離婚後も父母が話し合って決めます。

日本でも共同親権導入の動きがある

今、日本でも共同親権を導入しようという動きがあります。法務省は、離婚後の父母の共同親権制度を導入するための本格的な検討段階に入っていると伝えられています。これはいったいどうしてなのでしょうか? その背景を見てみましょう。

親権者となった親による虐待問題

ひとつは、親権者となった親や再婚相手(内縁を含む)による虐待問題です。単独親権者となった親が再婚し、新しい結婚相手との間に子どもができたりして前の子どもを虐待するといった事例も相次いでいます。再婚相手による虐待事例も多く、ときには幼い子どもが死亡してしまう痛ましいケースもあります。

このような事態は、共同親権下でもう片方の親が関与していれば防げる可能性があるのではないか。そういった考え方があるのです。

親権者となれなかった親が子どもと会えない問題

もうひとつの重要な問題は、離婚後に親権者となれなかった親が子どもと十分な面会の機会を持てない実態があるという点です。

面会交流は、親が離婚した子どもにとって、親権者にならなかった親の存在や愛情を認識する大事な機会です。しかし、離婚する親同士の関係が悪化した場合、面会交流がなかなか実現しないといったケースが多くあります。これが共同親権になれば、両方の親が子どもと関わる機会を十分に持てるのではないかという考え方があるのです。

国際標準に合わせる

共同親権制度の導入は、国際標準に合わせるという意味合いもあります。

「離婚しても、どちらも子どもの親」であることに変わりはないのだから、離婚後もどちらにも親権を認めるべきという考え方は合理的です。法務省としては、まずは24の諸外国でどのように離婚後の親権制度が運用されているのか調査を行い、その結果を踏まえて共同親権の導入を本格的に検討しようとしています。

共同親権の問題点

ただし、共同親権にすれば単独親権下で問題となっていることがすべて解決するのかというと、そのようなことはありません。単独親権と共同親権とを選択し得る「選択的共同親権」の制度が導入されるという場合には、そもそも共同親権が選択されないことにより現状がそれほど変わらなくなるというケースが予想されます。

また、共同親権が選択されることにより、離婚後も親同士が子どもに関して話し合いをせざるを得なくなれば、このことを負担に感じてしまうという親も出てくるかもしれません。子どもの進学先などに関して意見の対立があった場合には、意思決定が遅れてしまうことも考えられます。

まとめ

離婚後、子どもが両方の親からの愛情を受けながら不安なく育っていく環境を作るために、現状の制度をどのように改善していけばよいか、諸外国の事例を参考に検討が進んでいくことになると思います。その動きを注視していくとともに、弁護士としては、離婚した2人とその間の子どもがいかに現状の制度の中で新しい生活を前向きに送っていくことができるか、その方法を探っていきたいと思います。

執筆者プロフィール : 弁護士 高橋 麻理(たかはし まり)

第二東京弁護士会所属。東京・横浜・千葉に拠点を置く弁護士法人『法律事務所オーセンス』にて勤務。慶應義塾大学法学部法律学科卒業。2002年検察官任官。東京地検、大阪地検などで勤務後、2011年弁護士登録。元検察官の経験を生かして、刑事分野の事件を指導、監督。犯罪被害者支援や離婚問題に真摯に取り組んでいる。

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