離婚した夫婦間で子を引き渡す際のルールを明確化した改正民事執行法などが10日、参院本会議で可決、成立した。引き渡す側の親が不在でも、引き取る側の親が立ち会えば、裁判所の執行官が強制的に子を引き渡すことができる。一部を除き1年以内に施行される見込み。
夫婦の離婚に伴う子の引き渡しは現在、明確なルールが定められておらず、親権がないまま子と暮らす親に拒まれて引き渡しが実現しない例も多い。子を親権者に返すまで制裁金を科す間接強制も行われているが、実効性に乏しいとされる。
このため新たな制度は、制裁金では引き渡しに応じる見込みがあると認められない場合や、子に差し迫った危険を防止する必要があるなどの場合、裁判所が執行官に強制的な引き渡しの実施を命令し、執行官が子の居場所を訪ねることとした。これまでは引き渡しを命じられた親の立ち会いが必要だったが、新制度では親が不在でも親権者が立ち会えば引き渡せる。
あわせて、国境を越えた子の連れ去り防止を定めた「ハーグ条約」の国内実施法も改正され、同様の規定が整備された。
また、改正民事執行法は、養育費の支払い義務を果たさない人の預貯金などを差し押さえやすくする制度も新設した。債権者が申し立てれば、裁判所が金融機関に命じて債務者の預貯金などの情報を取得でき、市町村や登記所などの公的機関からは土地・建物や勤務先の情報を得られる。
このほか、不動産競売からの暴力団排除策も盛り込んだ。買い受けの際に組員などでないことを陳述させ、うその場合は刑事罰を科す。裁判所は最高額の入札者を警察に照会し、組員などと認められれば売却を許可しない。【村上尊一】
◇改正民事執行法のポイント
▽離婚に伴う子の引き渡し手続きを明確化。裁判所に引き渡しを命じられた親が現場にいなくても、引き取る側の親がいれば、執行官が強制的に引き渡せる。
▽養育費や賠償金を支払う義務がある人の預貯金や勤務先の情報を、裁判所が金融機関や公的機関に照会、取得できる。
▽不動産競売から暴力団を排除。最高額の入札者が組員なら裁判所が売却不許可を決定。
◇強制執行に「配慮規定」 解釈今後に
今回の法改正は、子の福祉の観点から、強制執行に「配慮規定」を盛り込んだのが特徴だ。裁判所と執行官の責務として、「子の年齢及び発達の程度」などの事情を踏まえ、「子の心身に有害な影響を及ぼさないように配慮しなければならない」と条文に明記した。
民事執行法は、債権者の申し立てにより裁判手続きで強制的に債務者から債権を回収する手続きなどを定めている。「物」の引き渡しに関する規定が、子の引き渡しにも類推適用され、子への配慮は執行官の裁量に委ねらているのが実情だった。
新たに配慮規定を設けることで、児童心理の専門家などを執行補助者に据えるといった運用をより一層促す効果も期待されている。政府関係者は「強制執行の運用に基軸、価値観を与える条文だ」と説明する。規定をどう解釈し、具現化していくのかは、裁判所などが今後実務を通じて検討していくこととなる。【村上尊一】