離婚訴訟で父親側が、離婚後も子供の親権を父母双方に残す「共同親権」を求めるケースが相次いでいる。男性の育児参加が進んだことなどを背景に親権争いが増えているのが理由とみられるが、現行の民法は片方を親権者とする単独親権制度のため、裁判で認められた例はない。一方、欧米では共同親権が主流で、国は導入に向けて法改正の検討を始めている。
◆「成長に責任」
「親として子供の成長に責任を持ちたい」
神戸市に住む整備士の男性(34)は、別居中の妻のもとにいる長男(11)、長女(9)のきょうだいに2年以上会えていない。
男性は2007年に結婚し、間もなく子供に恵まれたが、育児方針などで口論するようになり、夫婦関係が悪化。14年10月、妻は1人で自宅を飛び出し、8日後には男性に知らせないまま、小学校と保育園からきょうだいを連れ出した。
妻は15年1月、離婚を求める調停を神戸家裁に申し立て、話し合いがまとまらず訴訟に発展。昨年8月の2審・大阪高裁判決は1審判決に続き、母子での生活が安定しているとして妻を親権者とする離婚を認めた。男性側は、離婚後に親権が片方にしか認められないのは憲法が保障する法の下の平等に反するとして、最高裁に上告している。
男性が最後にきょうだいと会ったのは16年秋。その際、長女が描いた家族4人がほほ笑む絵をもらった。今も大切にしているという。
同種訴訟は他にも複数あり、東京都の男性も共同親権を主張。しかし、最高裁は今年2月、憲法判断を示さないまま、男性側の上告を退けている。
◆「母親へ」多く
厚生労働省の人口動態統計では、17年に離婚したのは約21万組。1990年代後半から3組に1組が離婚する流れが定着する中、親権争いが激化している。
司法統計によると、どちらが子供を育てるかを争う「監護者の指定」の調停・審判申し立ては2007年の約1700件から増加を続け、17年は約4600件に上った。別居中や離婚後に、片方の親が子供との面会交流を求める申し立ても17年は約1万5000件に上り、10年前から倍増した。
男性の育児休業取得率が1996年度の0・12%から2017年度は5・14%に上昇するなど育児を巡る環境も近年変化しつつある。
家事事件に詳しい谷英樹弁護士(大阪弁護士会)によると、育児参加した男性は離婚後も親権を持って子育てに関与したいと考える傾向にあるが、裁判所が親権者と認めるのは、母親が圧倒的に多い。谷弁護士は「共働き世帯でも母親の方が子育てへの関わりが強く、親権者を母とする方が成育環境に適していると判断しやすい」と分析する。
◆両親の視点
海外では欧米諸国に加え、中国、韓国なども共同親権を認めている。離婚後、親権を共同にするか単独にするか選べる国もある。ドイツでは、裁判所が共同親権を認めないのは違憲と判断し、1997年に法律化された。
上川法相(当時)は昨年7月、共同親権を求める親らの意見を踏まえ、単独親権制度の見直しに言及。選択制とする方向性も示唆しており、法制審議会(法相の諮問機関)で議論される模様だ。
共同親権は父母それぞれの視点を子供の発育に生かせる長所がある。一方で、育児方針などで父母が対立すると意思決定がしにくかったり、子供が両親の間を行き来して生活が不安定になったりとデメリットもある。また、父母のどちらかがDVや虐待の加害者の場合、もう片方の親による単独親権が望ましい。
親権 身の回りの世話や教育、財産管理、しつけなど、未成年の子供に対して親が持つ権利や義務。民法は「子の利益のためのもの」と定義する。離婚後の親権者の割合は戦後、男性が高かったが、1970年に逆転。2000年代から女性が約8割で推移し、17年は84%だった。